埠頭

先日、アマゾン・プライムの見放題で、日本映画「疑惑」を見ました。

松本清張原作の推理ものです。きょうはこの映画の感想を書きます。なお、私は映画を見る前に、うっかりネタバレを読むと、ものすごくくやしいので、基本的にネタバレはしません。

疑惑、基本情報



監督:野村芳太郎
公開:1982年(昭和57年)9月
主演:桃井かおり、岩下志麻
上映時間:127分
印象に残っている脇役さん:仲谷昇、山田五十鈴。
この映画はかなりの豪華キャストで、名を知られた役者がたくさん出ています。

配給は松竹と富士映画というところ。制作は松竹と霧プロダクションで、霧プロダクションは、野村監督が松本清張と作ったプロダクションです。数年で解散になりましたが。

松竹の作品は、最初に富士山がばーんとうつりますが、この映画では、富士山より先に、「霧プロダクション」と出て、松本清張の横顔のイラストが出ます。

このイラストは線画で、ヒッチコックの横顔のイラストの真似かしら、と思いました。

この映画は以前、テレビで見たことがあります。今回、映画を見てみて、結末を間違って覚えていたことに気づきました。

あらすじ



ある夜、乗用車がごーっと富山の埠頭に走って行って、車ごとばーんと海に飛び込みます。

車の中から女性(桃井かおり)が脱出し、救助され助かりましたが、いっしょに乗っていたご主人(仲谷昇)は車の中で溺死しました。

この女性の名前は白河球磨子(くまこ)、ご主人は白河福太郎。

球磨子は、とってもわがままで礼儀知らず、しかも、怒ると凶暴になり、前科が四犯もある困った人、でも桃井かおりが演じているので、きれいだし、笑うとかわいいし、頭の回転も早く、口も達者で、魅力的に見えなくもないです(とはいえ、こんな人とは友達になりたくないです)。

福太郎は、白河酒造という由緒ある、かつ有名な会社の社長でお金持ち。性格は気弱でお人好し、自分の意見をばしっと言えない人。奥さんを失くし、7年たったところで、バーでホステスとして働いていた球磨子に出会い、ベタぼれして再婚。

球磨子は多額の保険金(3億円以上)を福太郎にかけていました。白河酒造の人間は、態度の悪い球磨子を嫌っていて、「あの女が福太郎を殺した」と言います。

球磨子に前科があったせいか、状況証拠しかないのに、球磨子が保険金目当てで福太郎を殺したと、メディアで騒がれ、結局、球磨子は逮捕されます。

メディアはかなり球磨子を叩き、球磨子の旧姓が鬼束なので、「鬼くま」と呼んだりします。

白河酒造の弁護士が球磨子を弁護するはずでしたが、裁判が始まってすぐ、「私は健康に自信がないので(肝臓が悪い)、長丁場の裁判には耐えられません」と、彼はおりてしまいます。

まあ、酒造会社の弁護士なので、刑事裁判は苦手なのでしょう。だから、さきに、刑事裁判が得意な東京の友達の弁護士(丹波哲郎)に、「一緒に弁護して」と頼んでいたのですが、丹波哲郎は、球磨子と面会後、「いやです」と断っています。

この裁判の弁護をやりたがる人がなかなかいませんでしたが、結局国選弁護人として、佐原律子(岩下志麻)が任命されます。

かくして、裁判が始まり、弁護士や、検察官(小林稔侍)が証人にいろいろな質問をし、いろいろな証言者が、いろいろなことを言い、再現ドラマふうに、事件の全貌があかされていく、という内容です。

見どころ・印象に残ったところ



この映画の見どころは、球磨子の桃井かおりと、球磨子とは全然性格の違う弁護士、岩下志麻の、刑務所における面会場面。裁判にむけて、打ち合わせをしているのですが、いつも、2人は敵対しています。

球磨子は佐原弁護士にまったく協力的ではなく、ものすごく生意気なことを言いますが、佐原弁護士も、きついことを言い返します。

佐原律子は、球磨子とはタイプが違うのですが、やはり気が強いのです。まあ、気が強くないと、弁護士なんてできないでしょう。

気が強すぎるせいか、仕事一筋すぎたのか、律子は、ちょっと前に離婚しており、一人娘(小学校低学年くらい)は、ご主人が引き取っています。ご主人には、すでに、律子より若い奥さんがいます。

球磨子は刑務所に六法全書を持ち込み、弁当を食べながら、本を読み勉強しています。

球磨子は、「あんたなんか、大嫌い、私、自分で弁護する」、と佐原弁護士に言います。佐原弁護士は、「死刑になりたければ、そうすれば?」と冷たく言い放ちます。

どのみち、球磨子の裁判は弁護士なしでは、進められないため、球磨子はしぶしぶ佐原弁護士にお願いすることになります。

この映画はこの女優2人のやりとりを見せることが中心だから、男性陣はわりと情けないというか影がうすいです。

検察官の小林稔侍は、まじめそうではありますが、いつも、上目遣いで球磨子や律子を睨んでいる印象しかありません。

男優は情けない風情でいるべきなので、そもそも情けない福太郎とか、球磨子に、「あることないこと書いて、あんたみたいなのをペン乞食って言うのよ!」とさげすまされる新聞記者(柄本明)とか、

球磨子の元彼で、ちんぴらの鹿賀丈史は、いい味だしていたと思います。ただ、鹿賀丈史はちんぴらにしては、品がありすぎる気がします。

福太郎役の仲谷昇は、溺死体とか棺桶の中の死体として登場する死人の演技をがんばっています。彼は、球磨子と初めて会ったときは、球磨子に一方的におちょくられます。

球磨子に、「ねえ、さっさとこの保険入ってよ、全部!」と怒鳴られ、保険のパンフレットを投げつけられたあと、「うん、入るよ、入る」と泣きそうになりながら言うところなど、情けなさ加減が半端ではありませんでした。

このシーンでは、球磨子はベッドに座っていて、床に座っている福太郎を足蹴にしており、まるで女王様にいじめらているかのようです。

福太郎は、親戚一同の集まりでも、「さっさと球磨子と離縁しろ、嫁の操縦もできないのか、情けない」と言われっぱなしです。

白河家の人々は、「悪いのはみんな球磨子、そして球磨子の言いなりになっている福太郎だ」、みたいなことを言っていますが、自分たちだって、福太郎に全然やさしくありません。

そんなわけで、福太郎が気の毒すぎて、とても印象に残っています。

ちょっと納得いかなかったところ



佐原律子弁護士である岩下志麻は、アラフォーのキャリアウーマンという感じです。

月に1度、娘、あやちゃんと会う約束らしく、いつもおみやげを持って、レストランなどで会っています。このとき、たいてい元のご主人(井上孝雄)もいます。

おしまいのほうで、いまの奥さんの真野響子に請われて会い、律子は「2人が結婚したことは今さらもう気にしなくていいのよ」と言うので、仕事一筋で家庭を顧みなかった律子に飽きたらなかったご主人が、真野響子と仲良くなってしまったと思われます。

ところが真野響子は、自分は子供を作らず、あやちゃんを実の子供として育てていくから、もうあやちゃんに会わないで、と佐原弁護士に頼みます。

そのほうがあやちゃんのためにいいから、と。

そうなんでしょうか?

実の母は実の母、育ての母は育ての母だと思うのですが。あやちゃんだって本当のお母さんに会いたいと思うんじゃないでしょうか。母親が2人いたらまずいのかなあ。

佐原弁護士は、面会の権利は、離婚したとき、法律で決まったことなのよ、と言うものの、結局は、あやちゃんにおみやげを渡し、身を引きます。

彼女はあやちゃんを愛しているはずなのに、これはちょっと酷ではないか、と思いました。

疑問に思ったところ



この映画を見て、疑問に思ったのは、時速40キロのスピードで、車が海に落ちたとき、車内の人間は、車から本当に脱出できるのだろうか?

という点です。

この映画では、車のフロントグラスが割れ、球磨子はそこから脱出しました。そして、泳ぎが得意だったので、助かったのです。

逆に福太郎は泳げない、という設定です。

車が海にばーんとあたったとき、自分の身体も、車内でどこかに激しくあたらないんでしょうか?

画面ではしっかり確認できなかったのですが、ふたりともシートベルトはしていなかったと思います。

日本で一般道における、シートベルトの着用が義務となったのは1992年(平成4年)11月1日からです。高速道路は、もっと早く、1985年(昭和60年)9月からです。

いずれにしても、この映画が作られたときは、まだ着用義務はありませんでした。

仮に、どこにも身体がぶつからなかったとしても、いきなりフロントグラスが割れて、水がどどっと入ってきたら、水を飲んじゃって、動きがとれない気がします。

脱出できないんじゃないの、と思っていたのですが、Wikimediaを読んでいたら、この映画(小説)の設定は、本当にあった保険金殺人事件をモデルにしている、とわかりました。

1974年(昭和49年)の別府3億円保険金殺人事件です。この事件では、47歳の男性が、家族3人(奥さん、子供2人)と、車ごと、海に突っ込み、自分は助かっています。

あらかじめ、これから車ごと海中に飛び込み、逃げ出す、という計画と心の準備があれば、脱出できるようです。

でも、これって大きな賭けですよね?

何が起こるかわからないし、事前に予行演習をすることもできません。

自分の命をかけてまで、保険金をせしめたいのでしょうか? 私には理解できません。

結局、この犯人は、一審でも、二審でも死刑の判決が出て、最高裁に上告中、61歳のとき、癌性腹膜炎で死亡しました。

がん細胞は毎日たくさん生まれていて、通常は免疫系ががんばって退治しています。

この犯人は、犯罪のあとの、報道や一連の裁判でストレスがかかりすぎて、がんになってしまったのかもしれません。

保険金殺人など企てず、地道に働いて暮せば長生きできたかもしれないのに。

この犯人も、球磨子同様(球磨子のモデルなんですが)、前科がいくつかあり、何度か服役していたから、九州一のワルと呼ばれていたそうです。

犯罪は割に合わない、と気づかない人が、犯罪を重ねるのかもしれません。

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